愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

 シャーリィは、かつて授業で聞いた言葉を思い出していた。
 
『人の心を曲げることは、たとえそれが善なる目的のためであれ、竜神様に許されぬ禁忌(きんき)――光の宝玉の力を最大限に引き出せば、相手の心を、持ち主のことしか考えられぬように(しば)り、意のままに操ることも可能――しかしそれには「代償」が必要となる……』
  
 第二子の出産からしばらくして、極端(きょくたん)身体(からだ)の弱くなってしまった王妃。
 その原因が、精神的なことではなく、宝玉の力を悪用したことによる『代償』なのだとしたら――もし王妃が口封じのため、ミルトが自分に絶対服従するよう、心を縛ってしまったのだとしたら……。
 そう考えれば、ミルトの不自然な言動、異常なまでの王妃への崇拝(すうはい)にも説明がつく。
 
 ――そこに思い至った途端(とたん)、シャーリィは(たま)らなくなって竜使の間を飛び出していた。
 そのまま満月宮を飛び出し、宮殿裏の坂道を上り、旧王城跡の物見の塔へ()け込む。
 彼女が声を上げて泣ける場所は、この古びた塔の上だけなのだ。
 シャーリィは泣いた。何をどうしていいのか分からぬまま。
 ただ感情と衝動のままに、声を張り上げて泣いた。やがて日が落ち、空に星が輝きだしても……。
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