はじまりは雨のなか
引きずる気持ち

それからしばらくは雨が降るとあの人の姿を探していた。

でも、あの人とは会えないまま日は過ぎていき、気がつけば私がヒールをひっ掛けた辺りを含め駅前は綺麗に整備されていた。

「そっか…『現場だ』って言っていたもんね。工事が終わればここに来ることもないんだろうな…」

綺麗に舗装された路面を見て、寂しい気持ちになった。
工事中も何度かあの人を探してみたけれど、その姿を見つけることはなかった。


12月になり私は今の仕事にも慣れ、クレーム対応も一人でこなせることが増えた。

「今の仕事にもだいぶ慣れたみたいだね」

と声を掛けてきたのは同期の萩原くんだった。

「うん。お陰様でいろいろ処理しているうちに自然と出来ることが増えてたみたい。慣れてきたこともあるんだろうけど、怒られることも減って、お礼を言われる時もあるよ」

と笑顔で答える。

「異動してすぐの頃は暗い顔ばかりで、すごく疲れているようだったから心配してたけど、笑顔が見られるようになって良かったよ。ところでさ、同期でクリスマスの前に飲み会でもしようかな、って話があるんだけどどう?」

「いつなの?」

「急なんだけど今度の金曜日」

「本当に急だね。せっかくのお誘いだけど、その日は紗希と約束してるから無理かな。最近忙しくて会えてないから、紗希と女子会してくる」

「えっ、二人とも同期なんだから一緒に飲もうよ、な?」

「紗希に聞かずに私だけではOKとは言えないよ」

「じゃあ、この後園田にも声を掛けに行くところだから、合同でしようって言ってくる」

いつになく強引な萩原くんに面食らうも、紗希が良いなら同期で飲むのも久しぶりだから良いと思ったので、とりあえず「分かった」と答えた。

就業後に萩原くんから『園田もOKだから、今度の金曜日は飲みに行こう』という言葉とお店を知らせるメッセージが届いていた。

「もう年末なんだな…」
と呟き、最寄り駅でバス停に向かう。
雨が降っているからとつい辺りを見回す。それでもあの人の姿を見つけることはなかった。
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