しらすの彼
 震える自分の手を握りしめる。
 大丈夫。落ち着かなくちゃ。部屋に入っちゃえば、鍵を掛けちゃえば……

 握りしめた私の手をぽんぽんと相良さんが叩いてくれた。顔をあげると、なだめるように笑ってくれる。その穏やかな笑顔に、少しだけ癒された。

「ん。そうだね。でも、戸締りはしっかりと。チェーンも忘れずにね」
「はい。ありがとうございました」
 私は言われた通り、部屋に入るとすぐに鍵とチェーンをしっかりとかけた。

  ☆

 眠ろうとすると背後から追ってくる小野先生の姿が頭に浮かんで、そのたびに飛び起きる、という事を一晩中繰り返した。ほとんど眠れないままに、外がぼんやりと明るくなってくる。

 完全に寝不足。今日が休みでよかった。
 どうせ眠れないなら、もう起きちゃおう。

 しぱしぱする目をこすりながら遮光のカーテンを開けようとして、手をとめた。
 まさか……いないよね。いるわけない。考えすぎ。
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