竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 ヘンデル王国は大陸でいちばん小さいが、世界的に見ると名の知れた国である。その理由はふたつあり、ひとつめはヘンデル出身の女性は世界一美しいと言われていること。ふたつめは、ヘンデルには代々神の加護を持つ者がおり、聖なる魔力を持っていること。魔力を持つ者は聖魔法で、場所や物体などに神の加護を与えることができるという。ただし女性に限るようだ。
アーレント伯爵家は、まさにその血筋を持った貴族だった。そのため、エルナとアリーシャはふたりとも聖なる魔力の持ち主だ。
 今回エルナがシェーンベルグの王太子妃に選ばれたのは、このことが大きな要因だろう。しかし――きっと、それだけではない。なぜなら、竜人国であるシェーンベルグへ嫁ぐということは、決して喜ばしいことではないからだ。
(私が〝生贄〟として選ばれたということね。……なんとなく、いつかこうなる気はしていたわ)
 エルナが驚いたのは一瞬で、その後は至って冷静だった。
「やったなエルナ! さすが我がアーレント家の娘だ!」
 都合いのいいときだけ娘扱いする父に、エルナはたまらず苦笑する。エラ夫人やアリーシャも「すごいすごい」とエルナを持ち上げるが、こんなのはとんだ茶番劇だ。
さっきエルナが思った通り、シェーンベルグへ嫁ぐということは、自分が生贄に出されたのと同じことだからである。
シェーンベルグはいつも、王妃や王太子妃にヘンデルの加護持ちの娘を迎えている。これはもう、古くから伝わるしきたりのようなものだ。
 そもそもなぜこんなしきたりができたのか――約二百年前、人間より強大な力を持つ竜人族を恐れた〇〇国の人間たちが、大陸から竜人族を追い出そうと戦争を起こしたことが始まりと言われている。〇〇はヘンデルの人間たちも味方につくように頼んだが、戦争を嫌がった当時のヘンデル王女はずっと中立の立場を貫き通した。結果、〇〇は返り討ちに遭った。
そんな血の気の多い〇〇が次に目をつけたのがヘンデルだった。自国の衰退や、大陸での立場を危ぶみ、決して強いといえないヘンデルを力で抑え込んで支配下に置こうとしたのだ。自分たちに協力しなかったことへの恨みも当然あったといえるだろう。
しかし、ヘンデルに思いもよらぬ味方が現れた。それはシェーンベルグの竜王だった。
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