竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 庭園でしゃがみ込むエルナを見つけたアーレント伯爵に声をかけられ、エルナの肩が小さく跳ねた。
「は、はい……すぐ行きます」
どうやら祈りは届かなかったらしい。いつも自分そっちのけで楽しんでいる家族団らんの時間にわざわざ誘われるなんて、エルナにとってはなにか裏があるとしか思えなかった。
びくびくしながら呼ばれた場所へ行くと、美味しそうなお茶とお菓子が用意されていた。用意された席の隣にはアリーシャが座っており、向かいには父、その横に義母であるエラ夫人が足を組んで腰掛けている。
「なにしてるんだエルナ。早く座れ」
 ――父が笑いかけてくるなんて不気味すぎる。
 エルナは内心そう思ったが、言われた通りに空いた席に浅く腰掛けた。あまりに場違いで、早くここから抜け出したいと座った瞬間から思った。
「私はさっきまで知っての通り王宮に行っていたのだが……」
 父が話し始めた。王宮に用事があったなど、エルナからするとまったく知らない情報である。ますます自分がここに呼ばれる意図がわからない。
「そこで、国王陛下から我が伯爵家に素晴らしい大役を与えてもらったのだ」
「まぁ! さすがお父様、いったいなんですの!?」
 わざとらしく大袈裟に反応するアリーシャ。まるで初めから話を知っているようにも見える。
(……大役って、もしかして)
エルナはこの先の展開を悟ってしまい、動きを停止させる。
「エルナ。お前がシェーンベルグの王太子の妻に選ばれたぞ!」
 それは、変わらない毎日を送っていたエルナへの突然の知らせだった。知らぬ間に、同じ大陸にある竜人の国、シェーンベルグの王太子妃となることが決定していたのだ。




 三つの国がある大陸、その名もルーシヴァ大陸。
 ルーシヴァ大陸は軍事力のある〇〇、神の加護を持つ美しき小国のヘンデル。そして大陸でいちばんの面積を占めている竜人国シェーンベルグでできている。
 エルナはそのうちのひとつ、ヘンデル王国で生まれ育った。
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