偶然に巡り合う幸せってあるのですね

遡ること5年前。

私は買い物を済ませ、家へ帰ろうとしていた。
ところが見る見るうちに空が黒い雲に覆われて、急な雷雨に見舞われてしまった。

屋根を求めて路地に入ると、初めて来た場所なのになぜか懐かしく感じた。
不思議な感覚に私は、路地の奥へと誘われるように迷い込んでしまったのだ。
その時、目に留まったのが古びた大きな木の扉。
それは何とも言えないノスタルジーというのだろうか、そんな趣を感じさせる佇まいだ。

私は扉に吸い込まれるように店の中へと入ったのだ。

ここは小さなバーだった。

オーナー兼マスターでもある横山さんがバーテンダーも務めている小さな店だ。
これが私と横山さんの初めての出会いだった。

私はその頃、父親が他界してしまった悲しみで深い闇の中にいた。
そんな私の話を受け止めてくれたのが横山さんだった。

それからというもの、私は横山さんの店に通い、少しずつ元気を取り戻してきたのだった。
いつしか父親の姿を重ねていたのかも知れない。



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