偶然に巡り合う幸せってあるのですね

…それから5年後の、今日。

大きな木の扉を押して店に中に入ると、カランコロンと優しいベルの音。
店の奥から、いつもの優しい声が聞こえて来る。


「おぉ…マユちゃん、いらっしゃい…仕事お疲れ様だね。」


マユちゃんと呼ばれた私は、千堂 真雪(せんどう まゆき)27歳。
大手総合商社と言われる、三ツ星商事の経理部に所属している。
しかし、昨年度に総務部から経理部に異動になったばかりなのだ。
総務部に居た時の私は、仕事の速さと正確さに定評があり、経理部の部長からの引き抜きで移動になった。

しかし、実際に経理部で仕事を始めると、分からないことだらけで驚いた。
総務と経理では全くと言って良いほど、仕事内容が違っている。
今までの実務経験など、いらないに等しいほどの全く別な仕事内容。
27歳にして、新入社員に戻ってしまったような気持ちになってしまう。

おまけに経理部で直属の上司にあたる課長の田辺は、仕事はできるが陰湿な性格で社内でも、ちょっと有名な人物だった。
田辺は黙っていれば、背も高く180㎝くらいはあるだろう。
冷たい表情だが、顔のつくりも整っている。

しかし、私にとってはそんなことはどうでも良かった。
予想通りだったが、毎日のように仕事に慣れない私に対する嫌味の連続攻撃が続く。
何とかして、田辺の攻撃を受けないように、早く仕事を覚えたかった。

私は見かけによらず負けず嫌いだとよく言われる。
身長は155㎝と小柄で、クルリとした目と小さい鼻と口が童顔と言われている。
髪型は少し長めのボブスタイル。

小さい頃は、細い体におかっぱの“こけし”とよく揶揄われていた。

< 4 / 19 >

この作品をシェア

pagetop