偶然に巡り合う幸せってあるのですね

「横山さん…聞いてよぉ…」


私は田辺からの嫌味に耐えられなくなると、この店に来て横山さんに話しを聞いてもらうのだ。
私の話を遮ることなく、優しい微笑で聞いてくれる。

横山さんは父よりも少し年上で60代後半の男性だ。
ロマンスグレーというのだろうか、髪はいつもキッチリと額を出すように固めているが、色は綺麗な艶のあるグレーだ。
顔立ちも、この年代の男性にしては、かなりさっぱりとした端正な造りだ。
若いころは、相当なイケメンだったのだろうと思われる。

私はそんな横山さんを父親のように慕っている。
無口な優しさも実の父親に似ていて大好きなところだ。

今日もひと通り横山さんに話をすると、少し心も軽くなった。
また明日から頑張ってみようと思えるのが不思議なのだ。


「マユちゃんはいつも頑張っているよ…きっと周りの皆も、その頑張りはいつか認めてくれるから、大丈夫だよ。そして、私はいつでもマユちゃんの味方だからね。」

「横山さん~~グスン」

横山さんは私の涙を拭くために、自分の白いハンカチを手渡してくれた。
アイロンがキチンと掛けられた綺麗なハンカチだ。

「マユちゃん、今日はもう遅いから、また近いうちに店においで。」

横山さんに促されて、渋々と店を出た。
私の身体をいつも気遣ってくれるのだ。
しかし、時計を覗くと、もうすぐ日付は変わろうとしている。
急ぎタクシーを止めて家に向かったのだ

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