偶然に巡り合う幸せってあるのですね

「あ…あの…マスター…横山さんは?」

するとその男性は、こちらをチラリと鋭い目でみた。

「親父は今日、動けなくなって病院に行ったんだ。」

「動けないって…そんなに悪いのですか?」

「そうだな…けっこう悪いほうなのかもな。」

会話をしていて、気づいたことがある。
この男性は横山さんの事を“親父”と呼んでいる。
まさか…この男性が、息子の樹(いつき)さん?

「あの…貴方は、樹さんでしょうか?」

「なんで、あんたが俺の名前を知っているんだ。」

「以前に伺ったのです。横山さんには息子さんがいらっしゃって、息子の名前をここのお店の名前にするって聞きました。」

「…そういう事か。」

樹は納得したのか、大きな氷を一つ手に取ると、カシャカシャと音を立てて、丸い大きな氷を作り始めた。

横山さん…お店に出られないほど、病気だったなんて…大丈夫なのかな…。
…そうだ!

「あのぉ…私をお父さんの所へ連れて行って貰えませんか?」

「はぁ?自宅だぞ。」

「ダメでしょうか?一目だけでも会いたいのです。このままでは心配で…お願いします。」

すると樹はしばらくの沈黙後、口を開いた。

「じゃあ、店を閉めるまで待っていろ…少し早めに終わってやる。」

「ありがとうございます。」

私はバーカウンターの端に座り、樹の仕事終わりを待つことにした。
カウンターの中で働く樹をじっと見た。


< 7 / 19 >

この作品をシェア

pagetop