偶然に巡り合う幸せってあるのですね
「あ…あの…マスター…横山さんは?」
するとその男性は、こちらをチラリと鋭い目でみた。
「親父は今日、動けなくなって病院に行ったんだ。」
「動けないって…そんなに悪いのですか?」
「そうだな…けっこう悪いほうなのかもな。」
会話をしていて、気づいたことがある。
この男性は横山さんの事を“親父”と呼んでいる。
まさか…この男性が、息子の樹(いつき)さん?
「あの…貴方は、樹さんでしょうか?」
「なんで、あんたが俺の名前を知っているんだ。」
「以前に伺ったのです。横山さんには息子さんがいらっしゃって、息子の名前をここのお店の名前にするって聞きました。」
「…そういう事か。」
樹は納得したのか、大きな氷を一つ手に取ると、カシャカシャと音を立てて、丸い大きな氷を作り始めた。
横山さん…お店に出られないほど、病気だったなんて…大丈夫なのかな…。
…そうだ!
「あのぉ…私をお父さんの所へ連れて行って貰えませんか?」
「はぁ?自宅だぞ。」
「ダメでしょうか?一目だけでも会いたいのです。このままでは心配で…お願いします。」
すると樹はしばらくの沈黙後、口を開いた。
「じゃあ、店を閉めるまで待っていろ…少し早めに終わってやる。」
「ありがとうございます。」
私はバーカウンターの端に座り、樹の仕事終わりを待つことにした。
カウンターの中で働く樹をじっと見た。