恋におちたとき
本編

前:棒付きキャンディの彼

 休日明け月曜日の朝は、いつも憂鬱な気分に満ちている。曇り空なら特にそう。
 気象庁は一度出した梅雨明け宣言を撤回し、空がいつ晴れるのか様子を窺っている。道行く人たちの手には、傘。今日は降ったり止んだりを繰り返すらしい。

 あーあ。休みたい。

 駅から出た途端、げんなりとした。
 駅前商店街からオフィス街に向かう道は、まるで羊の群れのような会社員の列。みんな同じ方向へ歩いてゆき、最後はそれぞれの会社へと吸い込まれてゆく。
 もちろん私もその一人。毎日毎日、同じことを繰り返す。

 思わず逃げるように視線を空へと向けたけれど、あいにくの曇り空。道路に沿って切り取られた灰色の空間は、まるで私に重くのしかかってくるようだった。

 仕方ない。

 心の中でつぶやいて、歩き出す。
 だってご飯食べなきゃ死んじゃうんだもん。自分で稼がなきゃ、お金は手に入らない。
 それじゃあお前は、専業主婦になれば家に落ち着いていられる性格なのか? って聞かれても、困ってしまうのだけれども。

 駅前の交差点を渡り右に折れると、金曜日に残してきた仕事を思い返しながら歩いていく。いつもの道。週をまたいだ程度では景色に変化はない。
 ぼんやりと、ただただ前方を見て歩いていたら、一人の男性の後姿に目がいった。

 この人、いいなぁ。

 明確な言葉にはならないくらいの感覚で、そう思う。
 身長は、ちょっと高め。180センチは確実に超えている。細身で、腰が小さくて引き締まっている。
 背が高くて細身だと栄養不良な感じがして好きではないのだけれど、この人の場合は違っていた。しなやかな感じ。そう思わせるのは、ゆったりとした歩き方のせいなのかな。
 その身長のせいで歩幅が大きくあっという間に進むから、つられて私も遅れないようにと心持ち足早になってしまう。いつもの憂鬱な道なのに、なんだか楽しくなってきた。

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