クールな御曹司の溺愛ペット【続編完結しました】
「もしもしお母さん?……うん、今まだ京都なんだけど。終電に間に合いそうにないから一泊してから帰るね」
『そんなに大変な仕事なの?だから派遣なんてやめなさいっていったのよ』
「派遣とか関係ないから。これも仕事なんだから仕方がないでしょう?」
『本当に仕事なんでしょうねぇ?』
何をするにしてもまず疑ってかかる母との会話は、思わずため息をつきたくなるほど。
なんだか怒られている気分になってついこちらも強い口調になってしまう。
「だからっ、あっ!」
これでもかと反論しようとした瞬間、すっと携帯電話が抜き取られて慌ててその行方を追う。
「お電話代わりました。私、株式会社塚本屋の副社長をしております、塚本一成と申します。……はい、いつもお世話になっております。本日は千咲さんを急きょ一泊させることになってしまい申し訳ございません。千咲さんの働きぶりで大盛況でして。また明日もお願いしますと他企業からもオファーが絶えないんです。……ええ、本当に優秀な方だと思います。こちらとしても千咲さんには期待しているんです。ですので、大事な娘さんだとは思いますが、私が責任を持ってお預かりしますので。……はい、大丈夫ですよ。また、改めてご挨拶に伺わせていただきます。では失礼します」
思い切り営業時の柔らかい口調で電話応対した一成さんは、何事もなかったかのようにしれっと携帯電話を差し出した。
携帯電話の画面は真っ黒ですでに通話は切れているようだ。
「い、一成さん?」
「まあちょっと誇張したけど、お母さんも納得してくれたみたいだから心置きなく一泊できるな」
「嫌味なこと言われませんでしたか?」
「いや?千咲をお願いしますって。とても大切に育てられてるんだなと思ったよ」
「……そうでしょうか」
「親は近くにいるとうざったく感じるかもしれないが、離れたときにわかるありがたさもある。それにいろいろと言ってくるのは心配の裏返しだ」
一成さんが言うならそうなのかもしれない、と納得しかけたが、「だが」と付け加えられる。
「千咲と泊まるためにはどんな理由も作ってみせるよ」
といたずらっぽく笑うので、私はぐっと息をのんだ。
そんな風に私を喜ばせるなんて一成さんは罪な男だ。
ときめきすぎて胸が張り裂けそうだ。