クールな御曹司の溺愛ペット【続編完結しました】

先附から始まり、お造りや京野菜の天ぷらが上品なお皿に盛り付けられ味だけでなく視覚でも楽しませてくれる。

ひとくち食べる度に「美味しい」とこぼれ落ちるほど、満足感が染み渡っていった。

「それにしてもさすが千咲だな」

「何がですか?」

「人のために何かをすることは誰でもできることじゃない」

デザートであるフルーツの盛り合わせまで機嫌よく堪能していることを指摘されたのかと思ったら、そうではなかった。
改めて今日の出来事を振り返る。

「いや、さすがに倒れそうな人を見たら誰でも助けますって」

「千咲はそういうことは当たり前だと思っているのだろうが、世の中そんな人ばかりじゃないからな」

「そうでしょうか」

「ああ。千咲は昔から変わっていないなと思ったよ」

一成さんの言っている意味がよくわからなくて首を傾げる。

「夏菜を助けてくれたのも千咲だろう?」

「夏菜?」

一成さんの妹であり私の親友である夏菜。
夏菜に助けられたことはたくさんあるけれど、私が夏菜を助けたことなんて何も思い当たる節がない。
むしろ今でも夏菜に助けてもらっていることばかりだというのに。

「あいつ気が強いから高校で浮いていたんだろ。それに塚本屋の令嬢だってことで変な奴が近付いていた。だけど千咲だけは普通に話しかけてくれたって喜んでいたよ」

「えっ、そんなの初耳です」

「そんな話を聞いていたから、千咲が初めて家に来たときはどんな子かなって観察していたな」

「ええっ、そうだったんですか。やだ、恥ずかしい」

初めて夏菜の家にお邪魔したとき、一成さんにも出会った。
あの時私は高校生で、一成さんは大学生。
とても大人びた容貌と静かな佇まい、そしてクールだけど優しくて柔らかい雰囲気に私は一瞬で心奪われたのだ。
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