恋がはじまる日
 数日して、編入試験を受けるため、俺は編入先の高校へと向かった。

 通っている高校よりも緑豊かで、穏やかな雰囲気だと感じた。最寄り駅から少し離れているせいか、学校の周りにはなにもなく、あるのはコンビニくらいだった。

 真冬で寒くはあったが、よく晴れていたのを覚えている。

 編入試験の時間よりもかなり早く着いてしまった俺は、少し校舎を見て回ることにした。
 この日の授業はもう終わったのか、部活中なのであろうジャージ姿の生徒達とたくさん擦れ違った。

 少し休憩しようと中庭へ行くと、花壇に水をまいている女子生徒がいた。なぜかやたら楽しそうに水をまきながらなにか独り言を言っていたような気がしたが、俺の姿を認めると、頬を赤く染めながら慌てたようにぺこりとお辞儀をした。

 しかし、あれ?と言う表情をして、俺の方に駆け寄ってくる。


「あ、えっと、こんにちは。学校見学の方ですか?」


 ああ、俺が他高の制服を着ていたから、声を掛けて来たのだな、とすぐにわかった。


「いや、今日は編入試験があって」

「そうなんですね!」


 彼女はなにがそんなに楽しいのか、にこにことしながら言う。


「よければ私、試験会場まで案内しますよ!」

「え、いや」


 試験会場くらいわかるし、なんなら一度会場に行ったし、まだ時間に余裕があるからこうしてぶらついていたのだが、何を勘違いしたのか、彼女はさっさと歩いていってしまう。


「あ、おい!」

「こっちでーす!」


 彼女が校舎の入口で手を振っている。

 女はどうも得意じゃない。対応するのが面倒だ。転入する前から変な女に遭遇してしまった、と心の中で少し毒づいた。
そそっかしいにもほどがあるだろ。


「はぁ…」

 俺はため息をつきながら、仕方なく彼女の後について行った。

< 115 / 165 >

この作品をシェア

pagetop