恋がはじまる日

記憶と彼女

 高校一年生の三学期。急に転校が決まった。
 親の都合で引っ越すことにはもう慣れていたし、一人暮らしも考えたが、一年しか通っていない高校にはなんの思い入れもなかったので、両親に一緒について行くことにした。

 ただほんの少し、心残りがあるとすれば、こいつのことだけだ。


「藤宮!転校するってマジ!?」

「ああ」


 中学生の頃からなにかと俺に対抗意識を燃やし、なんだかんだとずっと一緒に過ごしてきた男、柴崎。

 始めは鬱陶しくて仕方がなかったが、いや、今も鬱陶しいな。
 人との関わりに興味のない俺に、唯一しつこく付きまとってきたのは、こいつだけだった。


「俺と藤宮の闘いも、ついに終止符かぁ」


 闘っていると思っているのはこいつだけだったが、テストの点数、球技大会、体育祭のリレー、サッカー部の活動、なにもかも勝手に俺と競っていた変な奴だった。


「転校してもたまには遊ぼうぜ、連絡するし!」

 俺は浅いため息をついて頷いた。この時やっと、俺はこいつのことを友達だと思っていたのだと、気が付いたのだった。

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