恋がはじまる日

 玄関を出ると、外は一面真っ白だった。雪はもう止んでいたけれど、三センチくらい積もっているだろうか。ローファー滑りそう。

 私は慎重に一歩を踏み出す。新雪でまだ誰も踏んでいない雪は、さくさくと子気味良い音がして少し沈んだ。この地域でこれほど雪が降ることはあまりないので、見慣れない真っ白の風景に少しテンションが上がってしまう。

 桜並木通りまで来ると、歩いている人をちらほら見掛けるようになった。今日は今朝から歩いている人が少ない。雪が積もっているし、在宅ワークにしたり、バス通学にしたりしているのかもしれない。

 踏みしめられた雪も多くなってきた。滑らないようにと慎重に歩きつつ、十字路に差し掛かった時、ちょうど曲がり角から声を掛けられた。


「佐藤」

「え?」

 ブレザーの上にコートを羽織りマフラーを巻いた、防寒ばっちりな藤宮くんが私の横に並んだ。


「藤宮くん!?」

 教室に着くよりも早くに会えるなんて!なんてラッキー!


「あ、えっと、おはよう!」

「おはよう」

 いつもとなんら変わりのない挨拶のはずなのに、私の顔は緩みきってしまう。

 いかんいかん浮かれているのがばればれだ。引き締めねば。


「藤宮くん、いつもこの時間だっけ?」

「まぁ…」

 彼にしてはなんとなく歯切れが悪い。私は浮かれた頭で、余計なことを聞いてしまう。


「もしかして、私のこと待っててくれたとか…?」


 そんなわけないよねぇと思いつつ聞いたのだけれど、藤宮くんは少し気まずそうに視線を外す。


「あ、あれ…?」

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