恋がはじまる日

「美音、藤宮!お疲れ!カルボナーラうまいって評判だったよ!」

「本当!?」


 椿からの報告を受けて、私はほっと胸をなでおろした。


「よかった!藤宮くんのおかげだね」

 そんな言葉が自然と零れた。


 当の藤宮くんは特に何も言わなかったけれど、なんとなく嬉しそうに見えた。


「美音、なにかあった?」

「え?」

 急な椿の質問の意図が分からず、私は首を傾げる。

「あ、いや、何もないならいいんだけどさ!」

「?」


「とりあえず!文化祭一日目、何事もなく終われてよかったな!」

「うん!」

「美音、明日は仕事ないだろ?」

「うん、サッカー部の模擬店に少し顔を出すくらいかな」


 サッカー部は校庭でたこ焼きを売っているので、ちょっと様子を見に行くつもりだった。


「それじゃ、明日は一緒に文化祭まわろうぜ」

「え、うん、いいけど…」

「よし!決まりな!」

 そう言うと椿は嬉しそうに笑う。 


 私も椿といるのは楽しいけど、本当にいいのかな?せっかくの文化祭を幼なじみの私とまわって。

 文化祭と言えば、学校行事でもかなりの一大イベントだ。せっかくのお祭りに乗じて、好きな子を誘ったりするものじゃないのかな。もちろん私は彼氏も好きな人もいないから、友達でも誘おうと思っていたのだけど。


 藤宮くんはどうするのかな。女の子に誘われたりしてるのかな。どんな子とまわるんだろう。藤宮くんが誰かと一緒に文化祭をまわっているのを見るのは、なんだかちょっと嫌だなぁ。

 不意にそんな考えが浮かんで、私は胸を押さえた。

 あれ?なにが嫌なんだろ?私には関係ないこと、だよね。

 最近の私はやっぱりちょっとおかしい。
 何故か沈みそうになる気分を振り払うように、私は左右に頭を振った。


 ともかく明日は文化祭二日目!楽しまないと!


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