私の想いが開花するとき。

 里穂はお店に入ること無くそのまま健治と男の後をゆっくりと着いていった。取り乱して涙を流すこともなく、ただただ二人の背中を見つめながら歩く。もしかしたら心の奥底ではもうこうなる展開が予想できていたのかもしれない。


「ははっ……」


 笑いがこみ上げてくる。健治と男はなんの躊躇いもなく流れるようにラブホテルへと消え去っていった。ラブホテルの前で里穂は一人立ち尽くし身体の奥底から湧き上がる悲しみが乾いた笑いとなって口から溢れ出してくる。
 なんて惨めなんだろうか。
 確かに自分も心の中には特別に好きな人がいた。それでも健治となら夫婦としてやっていけるような気がしていたけれど、きっと健治の中では最初からこの関係はおわっていたのだろう。だって一度しか身体を重ねていないのだから。それにその理由も健治が男の人とラブホテルに入った事で分かったような気がした。その事実に対してもっと早く気づいて、もっとお互いに話していたら少しは違ったのだろうか。それとももっと積極的に自分から誘っていればまた違った未来があったのだろうか。いや、多分根本的に無理だったのかもしれない。健治はきっと同性愛者だったんだ。ぽっとでの女との浮気なんてレベルじゃない。あの二人はきっと長い期間誰にもバレないように愛を育んでいたのかもしれない。自分との結婚はきっとカモフラージュてきなところだろうか。似た者同士が結婚するってよく聞くけど本当だ。自分だって宏太への思いのカモフラージュとして健治と結婚したのだから。


 手でギュッと握っていたスマホが震えた。
 宏太からの着信だ。
(なんでこんなタイミングで……)
 なかなか鳴り止まないスマホは里穂の手の中で長く震えている。


< 14 / 29 >

この作品をシェア

pagetop