私の想いが開花するとき。
「もしもし?」
『もしもし里穂? みんなが里穂呼べってうるさくてさ。もう家ついちゃった? 一杯だけ顔出さない?』
居酒屋にいるのだろう、わいわいした周りの声が宏太の電話越しに聞こえてくる。それでも宏太の声は鮮明にしっかりと聞こえ、宏太の声を聞いただけなのに涙が視界を歪めて周りがよく見えない。
「あ〜、ごめん。もうそろそろ電車きちゃうから」
『里穂、お前今どこ? 迎えに行ってやる』
周りのガヤガヤとした音をかき消すような宏太の低くて太い真剣な声色にドクンと心臓が大きく高鳴った。宏太は里穂の少しの変化にも昔からすぐに気づいてはフォローしてくれたりと世話を焼いてくれていたのだ。もしかしたら泣いているのを気づかれたのかもしれない。必死で声を殺して普通を装っていたはずなのに、呆気なく宏太には見破られてしまう。夫の健治は里穂の変化に一切気づかなかったのに。気づかないというよりも興味がなかったのだろうと今日、今、実感してしまった。
「……帰るよ」
『里穂、俺がお前を迎えに行きたいの。すぐ行くから待ってろ一人で帰るな』
どうしてこの声はぐちゃぐちゃに溶かすように感情をかき回すのだろう。会いたい。宏太に会いたい。ずっとずっと大好きだった宏太の声だけでこんなにも身体は熱くなり心が一瞬で宏太に引き抜かれていく。
「……M駅の近くのラブホテル」
『は、はぁ!? 今から行くから動くなよ! 絶対にな!』
「ううっ……うん……ごめ、こうた……」
瞳の縁にしがみついていた涙は力が抜けたように一気に落ちた。それでも必死で声を押し殺して流れてくる涙を手のひらで何度も拭うけれどなかなか止まらない。むしろ泣くな、泣くなと強く思うに連れ思いとは反対に身体は感情をむき出しにしようとする。