やさしい嘘のその先に
***

()……」

 律顕(りつあき)が顔を出したと同時、途中からは努めて〝永田君〟と呼ぶようにしていたらしい稀更(きさら)が、思わず漏らしてしまったみたいに彼の呼称を揺らした。

 だがその途端律顕が低めた声音で「西園、呼び方」と稀更を(いさ)める。

「あ、……ごめんなさい、つい」

 その声に、稀更がハッとしたように居住まいを正して即座に謝って。

 美千花(みちか)は律顕のこんな突き放す様な喋り方を聞いたことがなくて、思わず瞳を見開いた。
 自分がどんなに邪険に扱っても、律顕の声は寂しげにトーンダウンする事こそあれ、基本柔らかく穏やかだったから。


「――あの、子供達のお迎えもあるし、私、そろそろ帰るね」

 律顕の毅然とした態度に気圧(けお)されたのは美千花だけではなかったのかも知れない。

 スッと立ち上がった稀更が、ソワソワと暇乞(いとまご)いを申し出て。
 そこでふと思い出したみたいに美千花の耳元に唇を寄せると、律顕には聞こえないぐらいの小声で付け足した。
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