Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 狙ったのは兄の首。もっとも苦しむことなく逝ける場所。
 だが、もがき苦しんでいたはずの兄は、その攻撃をも寸前で伏せてかわし、脇をすり抜けて再び落ちていた剣を拾っていた。
 兄は振り返り、右手で剣を構えている。頭を左手で抑えて、苦しそうな表情はそのままだった。
 どうして、そんなになってまで戦うの? 兄さん。
 大好きだった母は死んだ。寄り添って生きるはずのシルフィは私が殺してしまった。
 この人は何に縋って戦いを続けるのか?
 同じなのかもしれない。大切な人を──ネモを失って、自暴自棄のまま兄を討とうとした私と、変わらないのかもしれない。そう思った。
 魔王を殺した先にこの人に救いはあるのだろうか? きっとない。全てを失った兄がただ1人残されるだけだ。
 それでも兄は、苦痛に歪む表情のまま、肩で息をしながら、剣を構えて私を睨んでいた。

「もういいよ、兄さん。終わりにしよう。私も一緒に逝くから。母さんに謝りに行こう」

 そこには父さんがいる、母さんがいる。きっとネモにも会える。
 だから寂しくはない。
 むしろ、ここでどちらかが倒れるなら、残された方は本当に1人ぼっちになってしまう。
 それはとても寂しい気がした。
 私は剣を振るった。兄は避けた。だが、その動きに以前のような切れはなかった。
 足を縺れさせながら、必死に赤い剣を避ける兄。2撃目は左腕に掠った。
 今まで1度も攻撃を受けなかった兄に初めて傷を刻んだ。だが喜びはない。もう兄も限界なのだろうと思った。
 そのまま攻撃を続ける。私の剣は兄の肩に、足に、次々と傷を作った。
 まだ兄は倒れない。ふらつきながら剣を握っていても、反撃を繰り出す余裕はないようだった。
 もういいでしょう、兄さん。
 次に踏み込んで斬り上げたその一撃は、遂に兄の持っていた鉄の剣を遠くに弾き飛ばした。
 丸腰になった兄は驚いた顔で、飛んでいく剣を目で追っていた。すぐに拾いに行ける距離ではない。
 私達は不幸な兄妹だったね、兄さん。
 私は迷うことなく両手の剣を振り上げ、最後の一撃を──振り下ろした。
 私もすぐ逝くから……少しだけ……少しだけ先に待っていて……。

「チェント……」

 振り下ろしながら聞こえた、兄の最後の言葉に耳を傾ける。

「──すまない」

 何が起こったのか──
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