Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 終わったと思った瞬間、斬られていたのは何故か私の方だった。
 兄の手には、懐に忍ばせていたのだろう──短剣が握られていた。
 胸元をバッサリと斬られたのがわかった。鮮血が舞う。
 苦痛に歪んでいたはずの兄の顔には、再び鋭い光が宿っていた。
 なんで……?
 どうして……?
 兄さん、あなたはまだ戦い続けるの? そんなぼろぼろになりながら。
 ゆっくりと、自分の体が倒れていくのがわかった。
 苦しいだけじゃないの? あなたは何を求めて戦うの? 兄さん!
 意識を失う直前に私が見たのは、背を向けて走り去る兄の姿だった。
 そして、私の意識は闇へと消えていった。



 ネモがいた。後ろ姿しか見えないが間違えるはずがない。
 私は、ずっと会いたかったその背を追いかけて、後ろから抱きしめた。

「ネモっ!」

 会いたかった、やっと会えた。
 抱きつき喜ぶ私と対照的に、ネモは何故か戸惑った顔をしていた。
 チェント、何でここにいるんだ? と彼は問いかけてくる。

「会いたかったからに決まってるじゃない」

 もう放さない、ずっと一緒だよ、ネモ。
 だが、彼はやんわりと私の手を解くと、目線を合わせて語った。
 お前はまだここに来ちゃいけない。お前を連れて行くわけにはいかないんだ。
 優しい声でそう語りかける。

「どうして? なんでそんな酷いこと言うの? 私はあなた無しじゃ生きていけないよ」

 泣きそうな私の頭を撫でて、彼は笑顔で言った。
 しっかりしろ、チェント。お前にはまだやることが残っているんだ、と。
 俺はお前に生き方を教えた。もう兄に頼らずとも生きていけるように。だから、頑張れ。お前なら……大丈夫だ!
 彼は私を抱きしめた。そして、後ろを振り向き歩き始めた。

「待って、ネモ!」

 私は彼の背を全力で追った。だが、ゆっくり歩いているだけのはずの彼の背に追いつけない。
 どんどん遠ざかっていく。まだ言いたいことが山ほどあるのに。
 やがて、その背は見えなくなっていく。
 ネモ──!!



 目が覚める。石の天井があった。
 首を動かすと、周囲にいた兵士達の酷く驚いた声が聞こえてきた。
 上半身を起こす。そこで自分が魔王城内の兵士の詰め所に寝かされていたということが分かった。
 私以外にも、何人もの兵士が床に敷かれた布の上に寝かされていた。
< 107 / 111 >

この作品をシェア

pagetop