Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 誰が寝ていて、誰が死んでいるのかわからないような状態だった。
 私は……生きてるの?
 私は上半身の服を脱がされ、肌に何重もの包帯が巻き付けてあった。
 包帯の下に、確かにあの時兄に付けられた傷の感触がある。あれは夢などではなかった。

「どうやらお前も死に損なったようだな」

 その声に振り向くと、そこには包帯塗れになったガイアスがいた。
 私以上に満身創痍であちこちに血が滲み、左手には杖をついていたが、声はしっかりしていた。
 ガイアスから話を聞く。私を見つけて運び込んだ兵士の話によると、私の怪我はもういつ死んでもおかしくないような状況だったらしい。
 駄目で元々のつもりで、できる限りの手当てをして寝かせていた。それから数日経った今日、私は奇跡的に目を覚ましたのだった。
 はっきりしていることは、兄はあの後、止めを刺さなかったということだ。この傷で助かったのは偶然かもしれないが、兄は結局最後まで私を殺し切れなかったのだ。

「戦いは……どうなったの?」

 私が倒れたのは開戦直後、意識を失っている間、戦いの行方はどうなったのだろうか?
 ガイアスは、自嘲気味な笑みを浮かべながら答えた。

「魔王軍は……我々は負けた」

 その報告には現実感がなかった。まるで遥か遠くの国の知らせを聞いているかのように、その話に耳を傾けていた。

「俺も目を覚ましてから聞いたことだがな」

 ガイアスは語る。
 私が倒れた後、ガイアスもまた戦場に倒れ、数日生死の狭間を彷徨っていたのだという。生き残った兵士からの報告で、敗北を知ったのだと彼は言った。

「こちらの名立たる将は、全てヴィレントに討たれてしまった。そして……魔王様が討たれた」

 祖父が死んだ。この事実を私は複雑な感情を浮かべて聞いていた。結局、最後まで大したことは話せなかった、多くを語らなかった祖父。だがあの人が私に目をかけてくれていたことは事実なのだ。
 そして、兄はあのぼろぼろの状態から立て直し、祖父を討つまでに至ったという事実は私を驚かせた。

「最後の最後まで、軍勢では我が軍はベスフルを圧倒していた。だがその全てをまともに指揮できる将がいなくなり、降伏せざるをえなくなったのだ」

 せめて俺が最後まで動けていれば、と無念そうにガイアスが言った。

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