Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 今度は、カウンターを狙う。
 私は、振り上げられた前足に、ショートソードの斬撃を合わせにいった。
 前足を封じられれば、逃げ切ることもできるという判断だった。
 ゴスッ、と鈍い音がして、刃と前足がぶつかる。
 衝撃で、手首が壊れてしまうのではないかと思えるほどの重量が、襲い掛かってきた。
 固い……!?
 爪ではない場所を狙ったはずなのに、皮膚が固く、刃が通らない。
 このままでは押しつぶされると判断し、急いで剣を引いて、後方に避ける。
 だが、反動で地面に転がってしまう。
 なんとか、握った剣は放さない。
 が、体勢の崩れたそこに、ヘルハウンドの第3撃目が来た。
 まずい!?
 必死に、体勢を立て直して後ろに跳ぶ。避けきれない。
 ヘルハウンドの鋭い爪が、着ていた皮鎧の胸元に食い込んだ。

「!?」

 それは、心臓を抉り取るような一撃だった。
 死に物狂いで、顔面に剣の一撃を加えて、わずかに怯んだところで、一気に距離を取った。
 肩で息をしながら、胸元を確かめると、皮鎧が腰の辺りまで、完全に裂けていた。
 即座に後ろに跳んだおかげか、辛うじて、傷は皮膚までは届いていない。
 運が良かった。
 第4撃目はすぐには来なかった。相手もこちらを睨んでいる。
 今の自分では、とても勝てない。
 それは理解できた。
 だが、この獣と追いかけっこをして逃げ切れるだろうか?
 獣の足は速い。とても、逃げ切れるとは思えなかった。
 冷静に、手段を探している自分に少し驚く。
 昔の自分なら、何も考えず背を向けて逃げただけだろう。
 そして、背中からあの爪を受けて、あっさり死んでしまっていたはずだ。
 この時、実戦は殆ど初めてのはずなのに、あの訓練の日々は、私の精神面までも、鍛えてくれていたようだった。
 しかし、冷静に判断しても、今のこの状況は絶望的だ。
 やはり……なんとか逃げるしかない。
 霧に紛れて、相手がこちらを見失ってくれることを祈る。
 私に出せた結論は、そんなものでしかなかった。
 悠長にはしていられない。
 私は、ショートソードとは逆の腰に付けた予備の武器、短剣に手を掛けた。
 こんなもので、まともに傷つけられる相手ではない。
 それでも、一瞬でも隙を作れれば、それでいい。
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