Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 ヘルハウンドが仕留められる直前に横槍を入れれば、まだ勝負はわからなかったはずだ。
 だが、彼は機を逃した。

「くそっ、覚えていろよ!」

 捨て台詞を残して、彼は逃げていった。
 彼はこの日より、魔王領に戻れなくなり、行方をくらますことになった。
 ルンフェスが去り、静寂が訪れ、緊張が解ける。
 私は、ネモの胸に飛び込んでいた。
 そして、戸惑うネモに構わず、子供のように泣きじゃくった。
 一瞬戸惑った様子を見せた彼は、だがゆっくりと右手で、私の頭を撫でた。

「すまん、チェント。俺のせいで、とんでもない苦労を掛けた」

 ルンフェスの狙いは俺だったのに、お前を巻き込んでしまった、と彼は言った。

「違う! 違うの、ネモ!」

 そんなことはどうでもよかった。
 首を振り、泣きながら、私は言った。

「私、嬉しかったの。あなたに認めてもらえて、あなたが私を褒めてくれて、あなたが……」

 ──私を好きだと言ってくれて──
 それ以上は言葉にならなった。
 私は、彼の胸に顔をうずめて、声を上げて泣き続けた。

「……聞いていたのか?」

 彼は困ったような、照れたような、そんな顔をしていた。

「……嘘じゃ、ないよね?」

 私は彼に確かめた。
 彼は、しばらくの沈黙の後、

「ああ……」

 強く頷いて、確かにそう言ったのだ。

「私もあなたが好き!」

 はっきりとした声で、私は言った。
 彼の心に、しっかり届くように。

「私、頑張るから、あなたの期待に応えられるよう頑張るから、見捨てないでね」
「お前なら、大丈夫だ。俺が保証する」

 彼の手が、私を優しく包む。
 彼の胸に抱かれながら、私は思ったのだ。
 ようやく、私の居場所を見つけた。



 最初に出会ったとき、私のことをどう思っていたのか?
 のちに彼に聞いたことがある。

「出会う前は、親父のこともあり、憎く思った時もあったよ」

 彼はそう切り出した。

「だが実際にあった時には、弱々しい、かわいそうな娘という印象しかなかったな」

 レバス城の牢屋で会った時のことだろう。
 もう、ずいぶん昔のことのように感じた。
 だからそれ以降、お前を恨んだことは一度もない、と彼は言った。

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