Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
「ネモよお。俺には、お前があの女に、そこまで入れ込む理由がわかんねえんだけどよ?」

 ルンフェスは余裕の笑みを浮かべて、ネモに歩み寄った。

「お前まさか、あの女に惚れたとか言うんじゃねえよなあ?」
「……だったら、どうだというんだっ!!」

 聞き間違いだろうか?
 今、あるはずのないことが、聞こえるはずのない言葉が、聞こえた気がした。
 だが、それは幻聴ではなかった。
 確かに、私の耳には、私の頭には、私の心には、その言葉が届いていた。

「……おいおい、からかっただけなのによ。マジかよ。こいつは、本当に傑作だぜ! そうか、女に誘惑されて、目が曇っちまったわけか! 本当に哀れな奴だよ、お前は!」

 ルンフェスの言葉など、もう私の耳には入っていなかった。

「安心しろよ。あの女とは、ちゃんとあの世で会わせてやるからな」

 次の瞬間、私は跳んでいた。
 段差の高さなど気にも留めず、体の痛みもすべて忘れて。ただあの人を助けるために。
 両手で剣を突き出しながら、全力で跳んだ。
 ぐさり、と、鈍い音を立てて、私の剣は、確かに、ヘルハウンドの硬い肌に突き刺さった。
 そのまま、ヘルハウンドの背中に着地する。
 激しい落下の衝撃。だが、手は放さない。獣の背中がクッションになり、いくらか衝撃が和らいだ。

「チェント!?」
「てめえ!」

 2人が驚きの声を上げた。
 そして、背中を貫かれたヘルハウンドが、ネモを放して暴れだした。
 だが、意地でも手は放さない。首を狙ったはずが、わずかに狙いが外れたせいで、一撃では仕留められなかった。
 それでも、傷は浅くはないはずだ。
 私は刺さった剣を、さらに深く押し込んだ。
 咆哮が轟く。さらに激しく暴れ始める。
 まだ、力尽きないのか。
 そのしぶとさに驚嘆する。
 そこに拘束を解かれたネモが立ち上がり、突っ込んできた。

「うおぉぉーっ!!」

 ネモは雄叫びを上げて、ヘルハウンドの額目掛けて、剣を突き出す。
 その一撃を受けた獣は、遂に沈黙した。

「お、お前ら、よくも、俺のヘルハウンドを……」

 ルンフェスが震える声で短剣を構え、こちらを睨んでいた。
 ヘルハウンドの強さに慢心して、ロクな武器を持ってきていないのだろう。
 私達2人は、剣を構え、彼を睨み返した。
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