Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 彼の優しさに、期待に応えるためにも、ここで退くわけにはいかない。

「わかった。今は体を休めておけ。明日には、いよいよ敵と接触する可能性があるからな」

 彼は私を寝かせると、自身も横になった。
 そうして、夜は過ぎて行った。



 翌日、朝日が昇るか昇らないかの頃に、私達は出発した。
 これから戦場となるのは、魔の谷と呼ばれる場所である。
 そこは、左右を高い丘や崖に囲まれ、長く伸びた、魔王領までの道。
 平時であれば、なんてこともない、ただ長く続くだけの山間道だった。
 私が魔王領に来た時にも、馬車で通過したことのある場所だった。
 だが、そこが戦場となれば話は違う。
 中央の山間道を馬鹿正直に大部隊を率いて進めば、左右の崖から矢を射かけられるだけで、大損害を被るだろう。
 故に、それを警戒するなら、左右の丘や崖の上を移動するしかない。
 しかしそちらは、大人数が通れるような整備された道はない。
 人1人が通るのがやっとの道、ロープがないと登れない崖などが続く。
 高低差で優位に立つために、より高い場所を進もうとするほど、道は険しくなり、大部隊で進むことを困難にしていくのである。
 魔王軍側は、この谷を戦場にすると決めた時、部隊を3つに分けていた。
 大部隊が戦うには適さないこの場所。
 こちらの主力をぶつけるのは、魔の谷を抜けた先と決め、だが、大部隊が戦うのに適さないこの谷を、何の損害もなく素通りさせてやる必要はないという判断だった。
 今回は、地の利を生かして少数精鋭の部隊を配置し、一方的に損害を与えてから撤退するという作戦である。
 敵軍の完全な殲滅が目的では、なかった。
 私達は、その内の1部隊に配属されている。
 一番少数となるその部隊は、今、険しい崖を登っていた。
 部隊の全員が、崖を登りやすい軽装で、弓矢とショートソードを携えていた。
 兵士は全員大柄で、逞しい体つきをしていた。
 私が、この部隊で一番小柄なのは間違いないだろう。
 ここに来るまでも、周りの兵士たちは、私を明らかに訝しむような眼で見ていた。
 どうして、よそ者の小娘が付いてくるんだ? とでも言いたげだった。
 それは、仕方のないことなのかもしれない。
 私は今はまだ、何の戦果も上げていない。
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