Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 この人と戦っても、1対1なら絶対負けない。例え盾がなくとも、今の私の敵じゃない。
 改めて、自分の成長を実感する。
 ──今まで教えてきたどんな奴とも次元が違う──
 あの時、ネモが私のことを評した言葉の意味を噛み締める。
 私は……強くなった!
 その自信が、折れそうになる私の心を支えた。
 しかし、周りの攻撃を捌きながらでは、中々ローラントに決定打を与えられないでいた。
 ならばっ!
 私は標的を変え、彼の乗る黒馬の首を斬り落とした。

「しまった!?」

 突然のことにバランスを崩したローラントは、馬の後方に逆さに落馬し、肩を地面に打ち付けた。
 チャンス!
 私は止めを刺すべく、走る。

「まずい! 兵団長を守れっ!」

 敵兵の声が響き、数人の歩兵が私の行く手を遮った。
 さっきのように跳び越えるには、助走が足りない。
 もう少しなのに!
 歩兵達の槍と盾を斬り飛ばし、強引にかき分ける。
 兵の隙間から見えたローラントは、副官らしき兵士に肩を支えられ、後方に引きずられていた。
 歩兵をあっさり蹴散らす私の姿を見て、彼らの表情に明らかな焦りが見える。
 周囲の兵士達は指揮官を逃がすべく、慌てて道をあけていた。
 狭い山間道に、これだけ大勢の兵士がひしめき合っているのだ。
 簡単には逃げられない。
 私は走った。

「一度、下がって体勢を立て直すぞ! 全軍後退っ! 急げーっ!」

 副官が必死に叫んだ。
 このままでは、兵団長を討ち取られる危険があると判断したようだった。
 後ろの大軍が瞬く間に後退していく。
 その間、歩兵数名が、私の追撃を食い止めるべく残り、必死に抵抗を続けた。
 それらを夢中で斬り倒しきった時には、残る敵の大軍は遥か視界の向こうに消えていた。
 静寂が訪れる。
 た、助かった……?
 私は魔力剣を消し、その場にへたり込んだ。
 危機が去ったことをすぐには実感できなかったが、直後に、味方の大歓声が私を取り囲んだ。
 すげえぜ、英雄だ、まるで軍神だ、等々、称賛の言葉が飛び交っていた。
 私は、戸惑いと照れが混じった表情で、周囲を見渡した。
 味方の受けた被害は、決して少なくないようだったが、生き残れたことが奇跡のようなものだ。
 ネモが寄ってきて、私の頭に手を置いた。

「無茶のし過ぎだ。本気で肝を冷やしたぞ」

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