Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
「チェント! 無茶だっ!」

 ネモの悲鳴のような叫び声。
 だが、もう止まるわけにはいかない。
 戦いを見ていた臆病な兵士達は、突っ込んでくる私を、慌てて避ける。
 それでいい。今は雑兵に用はない。
 大軍の前には、道を埋め尽くさんばかりの歩兵達が、槍と盾を構えていた。

「奴を近づけるな!」

 敵兵の指示が飛ぶ。
 一糸乱れぬ動作で、槍が同時に突き出された。
 そんなものっ!
 私は、それをジャンプで避けた。
 空中で逆さになりながら赤い剣を振るい、一回転して着地する。
 敵兵の首が5つほど、宙を舞った。
 私の着地を狙って2本の槍が伸びるも、赤い盾が的確に受け流す。
 この距離でも、ネモの制御はちゃんと届いている。
 盾に弾かれた槍を叩き斬ってから、周囲の兵士が驚き止まっている隙をついて、一気に大軍のど真ん中を駆けた。
 見えた!
 慌てて槍を構えるローラントが目に入った。

「覚悟っ!」

 左手の剣を一閃させる。
 まだ、馬上の相手に届く距離ではない。
 私の一撃は、突き出されたローラントの槍の先端を斬り飛ばし、あっさりと無力化した。
 いける!
 右手の剣を、ローラントの首目掛けて突き出す。
 もらった、と思ったところで、硬い手応えが右手を襲う。
 ローラントの鉄の剣により、私の剣は防がれ、噛み合っていた。
 彼は、槍が無力化されたことを瞬時に判断して捨て、腰の剣を抜いていたのである。
 さすがに、ベスフルの兵団長ということか。

「お前は……ヴィレント・クローティスの? なぜ、魔王軍にいる!?」

 私のことを覚えていた?
 私はそれには答えず、戸惑っている相手に、容赦なく剣を繰り出す。
 2合、3合と打ち合う。
 刃と刃がぶつかるたびに、火花が散った。
 私の魔力剣は、槍の柄は一撃で斬り飛ばせても、流石に鉄の刀身は、すぐには壊せなかった。
 ローラントと斬り結ぶ間にも、周囲の兵士達が槍と剣とを左右と背後から突き出してくる。
 それをかわし、あるいは斬り払い、盾で受ける。
 何発か、肌と鎧に掠る。
 だが、今は掠り傷など気に留めてはいられない。
 動きを止めれば、多分あっさりと殺される。
 死にたくない。
 必死に恐怖を振り払い、剣を振るう。
 兵団長ローラントと斬り結んで、確信したことがある。
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