Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 突き出される兄の剣。絶対に避けられない。
 死にたくない。死ぬ覚悟など、できていない。
 だって私は、ネモと……この先を。
 次にぼやけたままの視界に入ったのは、こちらに剣を突き出した兄と、その間に割って入った背中だった。
 ぼうっと、その背中を見上げる。
 そこにいたのは当然、

「ネモ!?」

 私は裏返った声で悲鳴を上げた。最悪の事態を目の当たりにして。
 しかし、

「チェント、すぐに撤退するぞ!」

 直後に、はっきりとした声で言葉が返ってきた。
 兄の剣は、ネモを貫いてはいなかった。
 彼は左手に構えた盾で、辛うじて攻撃を受け止めていたのだ。
 胸を撫で下ろす。心臓に悪い。
 少し視界がハッキリしてきた。悠長にはしていられない。
 兄は、突然割って入ってきたネモにも、容赦なく攻撃を浴びせていた。

「ぐっ……くそっ!」

 激しく繰り出され続ける突きの連撃。ネモはどうにか急所は避けているが、盾の隙間を狙った攻撃が腕や肩のあちこちに掠り、小さく呻き声が漏れていた。
 これでは、ネモが撤退できない。私は頭を振って、どうにか視界をはっきりさせた。
 その時、兄に向かって突進してくる2つの影があった。
 味方の兵士だった。こちらの様子を見かねて、援護に来てくれたのだ。

『うおおおおーっ!』

 だが、雄叫びを上げて斬りかかってくる2人を、兄はそれぞれ剣の一振りずつで、あっさりと沈黙させる。
 剣のリーチの差など、まったく問題にならない。流れるような動作で敵の攻撃を掻い潜り、喉元を一振りで斬り裂く。
 2人は喉から血を噴き出して倒れ、動かなくなった。
 あっという間に、元の姿勢に向き直る。まるで消耗を感じさせない動き。唖然とするしかなかった。
 ネモは、隙を突く暇すら与えてもらえない。
 私はなんとか気持ちを奮い立たせ、立ち上がった。
 周囲を見渡すと、残った2枚の盾は地面に転がっていた。
 片方はさっきの一撃で浮遊石が粉々に砕かれ、使い物にならなくなっていた。残りは1枚だが、ネモが応戦している状態では制御ができない。
 兄の剣が、ネモの膝を浅く斬り裂く。ネモは苦悶の声を上げ、僅かによろけた。
 まずい!
 もう迷ってなどいられない。私は消えていた魔力剣を再び両手に灯し、前に出た。
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