Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 あそこにあるのは彼の容れ物。かつて彼だったもの。もう彼自身は、彼の魂はそこにはないのだ。
 シルフィを殺し、スキルドと決別した私は、何かが吹っ切れたようなそんな気持ちになっていた。
 ネモに会う方法はもう、1つしかない。
 魔王城に帰還した私も、砦の戦いに参加した者の1人として、謁見の間に集められている。
 次々と処分が下されていった。
 最も責任の重い大隊長が戦死していたため、彼の副官が罪を被ることになった。
 戦況の隠蔽を手伝った者には特に厳しい処分が下され、他の者も、地位剥奪、降格などの処分を受ける。
 そして、私の番が回ってきた。

「チェントよ」

 祖父の声が響く。その声は依然として大きな威圧感を伴っていたが、私は特に委縮することはなくなっていた。
 自分でも不思議だったが、色々あり過ぎて、感覚が麻痺してきたのかもしれない。

「はい」

 跪いた状態で顔を上げ、私は答えた。

「ネモのことは気の毒であったな」
「は……、いえ、お気遣い、痛み入ります」

 早速、処分が下されると思っていた私は、祖父のその言葉に少し面食らった。

「ネモが討たれた直後だというのに、貴様は単独で敵本陣に切り込んで損害を与えたそうだな。その働きは称賛に価する」

 周囲がざわめいた。周りの者たちも当然、私にも何らかの処罰が下されると思っていたからだ。
 それに、本陣を攻めたという事実を、私は誰にも報告していなかった。
 祖父がなぜそれを知っているのだろうか?
 私に本陣の地図を渡してきた兵士を思い出す。魔王の命令で来たと言っていたあの兵士。私の動向を見張り、祖父に報告する役目も担っていたのかもしれない。

「いえ、その時の本陣には殆ど敵が残っていませんでした。大した戦果にはなっていません」

 私は本心からそう言った。事実、直後に砦は落とされたのだから、私の与えた損害は大局には何も影響を与えていないことになる。

「だが、結果的に負け戦に関わった貴様に、恩賞を与えることはできん」

 祖父は言ったが、私には恩賞など興味のない話だった。
 ネモのいないこの魔王領で、新たな地位など何の魅力も感じない。

「もっとも、貴様の方も恩賞などは求めていないようだがな」

 まるで、そんな私の心を見透かしたように祖父は言った。
 今の私が求めるものは──

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