Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 遠くには隊列を組むベスフル軍の姿が見える。それぞれが、弓矢がギリギリ届かない程度の距離を保っていた。
 魔王軍はあの堅牢な城塞都市に籠れば、味方の被害もより少なく済むはずなのに、なぜそうしないのか? 私は疑問に思っていた。

「数で大きく勝る状況で、籠城を選ぶのは下策だ。味方の士気も下がる」

 作戦前、私の質問にガイアスはそう答えた。

「それに籠城すれば戦は長引く。今の食糧難の魔王領で籠城すれば、戦う前に備蓄が底を尽く危険があるのだ」

 故に全軍を率いての短期決戦こそが最良の策だと、ガイアスは言った。
 元々魔王軍がレバス王国を抑えベスフル王国まで攻め入ったのも、食糧難から領民を救うことが目的だったのだ。
 それが気が付けば、ここまで押し返されている。
 現時点で敵より兵力で勝っているとはいえ、楽観できる状況ではないはずだった。
 現在の魔王軍の総兵力は、ベスフル軍の3倍だと聞いていた。今、平原の向こうに立ち並ぶベスフル軍とこちらを見比べると、詳細な人数差まではわからないがあきらかにベスフル軍側の方が数で劣ることが見て取れる。
 この平原は凹凸が少なく、ひたすらだだっ広い。以前の戦場のように、身を隠して奇襲するなどといったことも難しそうだった。
 兄さんはどう出てくるかな?

「作戦通りに頼むぞ。準備はできているか?」

 横から声を掛けられた。声の主はガイアスだった。
 私はその言葉に無言で頷く。
 ガイアスは馬の倍ほどもあろう大きさの飛竜にまたがっていた。魔王軍に飼われている青黒い鱗をまとった軍用獣である。
 人を乗せて空を飛び、敵の鎧をかみ砕く。種としては絶滅寸前であり、魔王軍内でも乗りこなせるのは少数の人間だけだと聞いている。
 ただでさえ大柄なガイアスがこれに跨ると、まるでおとぎ話の巨人のような威圧感がある。

「では、始めるとしよう」

 ガイアスは飛竜に跨ったまま、持っていた弓を敵軍に向けて構えた。それは身の丈を超える巨大な弓だった。太く、そしてその色から木製ではなく、何らかの金属が使われていることがわかる。
 とてつもない強弓であろう。その弦が引かれると、弓の軋みと共に筋肉の軋む音まで聞こえてくるようだった。
 普通の弓なら、斜め上に撃っても届かないこの距離。だが、ガイアスは殆ど直線に矢を放った。
< 95 / 111 >

この作品をシェア

pagetop