星降る夜の奇跡をあなたと

実家に行ってみました

蓮が冬休みに入った。年末年始は
実家に帰らなくてならない蓮は、
その間の事を心配してくれた
が、私も元の世界では
約3年一人暮らしをしてきてるから
大丈夫、ゆっくりしてきてと
送り出した。
年明けの5日はじぶんぎ流星群が
ピークに観測される。その時にまた
One Treeに一緒に行くから、
4日の昼過ぎには戻ると、
それから“これは和奏専用ね”と
クマのキーホルダーが付いた
合鍵をくれた。きっとこの為に
買ってくれたのであろう。
合鍵を貰えた嬉しさと、
これを買っている蓮を想像して
微笑んだ。

蓮が居ない間はデータ入力をして
過ごした。それから実は、自分の
実家に行ってみようと思っていた。
ウチは毎年、祖父母の田舎で
年末年始を過ごして居たが、
父の仕事初めが4日の為、
2日の夜に帰ってきて、3日は
ゆっくりするのが恒例だ。3日に行けば
必ず会えるだろうと踏んでいた。
本当に15歳の自分が存在するのか、
当時の家族が居るのかを
確認してみたかった。
ここから実家までは2時間半の
道のり。実家があったとしても
泊まれないし、どこかに泊まる
お金を出すのも勿体ない。
往復5時間の日帰りの旅だ。
私は家を出発した。

事前に蓮のPCで電車の時間を調べて
おいたお陰で、電車の乗り継ぎは
スムーズだった。ただ移動時間が
長く、大抵こういう時は
kanadeの曲を聞いていたから、
空き時間を持て余していた。
こっちにきてからkanadeの曲を
聞いていない。というかそもそも、
kanadeの曲が初配信されるのが
1年後だから聞ける訳もないのだが。
以前は何かに付けてkanadeの曲を
聞いていたが、蓮の存在自体が
私にとってのkanadeの曲の役割を
果たしてくれているのだろう。
最初にあの部屋を見せて貰った日
から、曲についても機材についても
一切触れていない。私が泣いて
しまったから聞くタイミングも
無くなってしまったのも事実だが、
蓮自身が言わないということは
触れてほしくない事なんだろうと
思っていた。そんな事を考えながら
電車に乗っていると、いつの間にか
地元の駅に着いていた。

地元は18歳まで過ごしていた記憶が
しっかりあるし、一人暮らしを
始めてからも長期休みには帰って
いたから大きく変化している所は
ないように見えた。駅から実家までの
道のりは徒歩15分程。
見覚えがある場所に、私自身も家族も
存在するであろう期待に足取りは
軽かった。

見慣れた外観、表札には
はっきりと“安西”と書かれている。
やっぱり私の家は存在した!
中が見たいけど、どうしたら?
とりあえず、外壁に沿って歩いて
みたが、真冬に窓なんて開けてる
訳もなく、声も聞こえない。
正面に戻ろうとした時、玄関が
開いた。

「ほら、早く行こうよ」

あっ!弟だ。

「すぐ行くから待って。
 お父さんもお母さんも早く!」

私だ…。そうだ。この年、私の
高校受験が控えてて、初詣がてら、
お詣りに行こうって事になって
近くの神社に行ったんだ。

「ねーちゃん、何食べる?」

「私の合格祈願が第一だからね。
 でもじゃがバターは食べたい」

「だよな。俺、焼きそばも食べたい」

15歳の私と弟が話していると
お父さんとお母さんが出てきた。

「結局二人とも食い気の方が
 勝っちゃうのよね」

「なんでか屋台ってすっごく
 美味しく感じるんだよね」

家族で出掛けるなんて別に
特別ではない。それに、ただ屋台の
話をしているだけだ。
それなのに私の家族はとっても
幸せそうに見えた。
当たり前だと思っていた光景は、
当たり前ではなく、普通だと
思っていた事は幸せで、それを
ここに来て実感させられるなんて
思ってもいなかった。
15歳の私も今の私もこれが幸せだと
思っていただろうか?
実在していた自身と家族。
嬉しいと思った反面、あの輪の中に
私は入れないという事実を
目の当たりにして、急いで
その場を後にした。

帰り道はあまり覚えていない。
ただ、誰も居ない真っ暗な部屋に
着いた時、独りぼっちなんだと、
泣けてきた。
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