*夜桜の約束* ―春―
──ああもう、何だっつうんだ! 胸くそ悪いっ!!
団長室を出た凪徒は、筋状に光の零れるコンテナハウスや車の間の路地をズンズンと歩き、珍しく美しくない姿勢で自分の寝台車まで肩を怒らせていた。
「あ、お帰りなさい、凪徒さん。食事取ってありますよ」
車内に入るなり掛けられた声にギョッとし、小さなちゃぶ台の傍の眼鏡少年に目を留める。
音響照明係の秀成。
──そうだ……このパソコンおたくに掛かればきっと──。
「秀成クン~ちょっと頼みがあるんだけど?」
秀成は料理に掛けられたラップを取りながら、背中に悪寒の走るほどの猫撫で声にビクついた。
恐る恐る後ろを振り返ったが、こんな時の凪徒の頼みは常軌を逸していることが殆どだ。いや、ここは何とか断ろうと、毅然とした態度を取り戻す。
けれどそんな秀成に対して凪徒の方が一枚上手だった。
「秀成クン、俺は知ってるんだよ? 雑技団のリンにお前がちょっかい出したことを……」
「ひ~っ! な、何でもしますっ、凪徒お兄様っ!! だからそれは誰にも内緒に……」
レンズの向こうの長い睫が涙に濡れ、凪徒はおそらく殆どの女性が昇天するような美しい『天使』の笑顔を向けた。
「そう来なくっちゃ! じゃ、早速頼むよ。若いから三日くらい徹夜でもイケるだろ?」
──『悪魔』だ……。
秀成は無理やり首を縦に振らせ、凪徒の依頼に耳を傾けた──。
団長室を出た凪徒は、筋状に光の零れるコンテナハウスや車の間の路地をズンズンと歩き、珍しく美しくない姿勢で自分の寝台車まで肩を怒らせていた。
「あ、お帰りなさい、凪徒さん。食事取ってありますよ」
車内に入るなり掛けられた声にギョッとし、小さなちゃぶ台の傍の眼鏡少年に目を留める。
音響照明係の秀成。
──そうだ……このパソコンおたくに掛かればきっと──。
「秀成クン~ちょっと頼みがあるんだけど?」
秀成は料理に掛けられたラップを取りながら、背中に悪寒の走るほどの猫撫で声にビクついた。
恐る恐る後ろを振り返ったが、こんな時の凪徒の頼みは常軌を逸していることが殆どだ。いや、ここは何とか断ろうと、毅然とした態度を取り戻す。
けれどそんな秀成に対して凪徒の方が一枚上手だった。
「秀成クン、俺は知ってるんだよ? 雑技団のリンにお前がちょっかい出したことを……」
「ひ~っ! な、何でもしますっ、凪徒お兄様っ!! だからそれは誰にも内緒に……」
レンズの向こうの長い睫が涙に濡れ、凪徒はおそらく殆どの女性が昇天するような美しい『天使』の笑顔を向けた。
「そう来なくっちゃ! じゃ、早速頼むよ。若いから三日くらい徹夜でもイケるだろ?」
──『悪魔』だ……。
秀成は無理やり首を縦に振らせ、凪徒の依頼に耳を傾けた──。