*夜桜の約束* ―春―
 ──兄妹か……。

 少女は今一度、名所として名高い桜並木を振り返る。

 夕暮れを待ち焦がれるように空気がシンと引き締まり、フェンスの向こうの人波も、帰り支度の者・夜桜見物の準備を始める者と、次第に動きの違いが現れ始めていた。

 ──始まったのは、ここからだった。

 三度目の春を迎えるこの場所──彼女の『今』のスタート地点。

 二年前、始まったんだ──「ブランコ乗り」としての人生と、そして……桜色みたいな淡い恋心。

「おーい! 遅れると飯抜きだぞー、“モモ”!!」

 ──いつか鮮やかな桃色になれるのかな……?

「はーいっ」

 駆け出す背中に、一陣の風が桜吹雪を舞い散らせた。

 『モモ』と呼ばれた少女──早野 (もも)()の柔らかな髪を優しく(かす)めながら──。






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