*夜桜の約束* ―春―
「おーいっ、おピンク兄妹(きょうだい)~、夕飯の支度始めんぞー」

「くっ、(くれ)さんっ!? 今、何て……?」

 いきなり飛び込んできた驚愕の呼び声に、少女はたじろいて後ろを振り向いた。

 駆け寄る笑顔は「メイク」を落としたてなのか、いつになくさっぱりしている。

 が、一転少女の驚いた顔に動きを止め──いや……

「暮っ! お前なぁ──っ!!」

 ──動きが止まったのは、こちらのせいか……。

 少女が「先輩」と呼んだ彼、桜 (なぎ)()の怒りの形相が、「暮さん」こと、暮 純一の息の根を止めかねないほどだったからだと気付き、少女はまた別の意味での苦笑いをした。

「そんなに怒るなよ~凪徒! 『桜』に『桃』で、ピンク・コンビなのは間違いないだろうがっ」

「うっさい! そんないかがわしそうな呼び方すんなっ。第一、俺とこいつは──」

「「──兄妹じゃないっっ!!」」

 少女と凪徒の否定の言葉が同時に響き渡った。

「おーっ、さすが名コンビだな」

 暮のからかう口笛に、少し恥じらうように目を合わせる二人。

 が、そんな視線を()らせて「ピエロ」役の暮を羽交い絞めにし、凪徒はキッチンカーに向けて歩き出した。


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