*夜桜の約束* ―春―
「まだ五分咲きなのに? 大体『桜』なんか毎日見てるだろう」
この後手酷い仕返しが来るのは分かっているのに、暮は凪徒を冷やかすのをやめない。
案の定殺意の瞳で右手に持った包丁が振り上げられたため、暮は早々に退散し背を向けた。
手を止めていたボールの中の挽肉を、慌てて捏ねくり回し始める。
──ふ……ん?
右耳から吸い込まれる鼻歌は、確かにいつも以上に抑揚があるな、と凪徒も横目を寄せてみる。
流しの向こう側でトマトを櫛形に切り始めたモモは、そのまた向こうのコンロにかけられた味噌汁の火を止めて、再びトマトの元へ戻ろうと凪徒の方へ身体を向けた。
その時感じた視線に思わず瞳を合わせていた。
「あ……」
「え、あ、いや、何でもないって」
慌てて手元のキャベツに集中したが、凪徒は少し動揺し、そして少し同情していた。
本来なら同じ世代の女子達と和気あいあい調理をしたい筈だ。が、『練習』のため、モモは大概自分とのスケジュールに付き合わされる。
と言っても、それは自分も同じことか? と思えば、そこは微妙な心境なのだが。
この後手酷い仕返しが来るのは分かっているのに、暮は凪徒を冷やかすのをやめない。
案の定殺意の瞳で右手に持った包丁が振り上げられたため、暮は早々に退散し背を向けた。
手を止めていたボールの中の挽肉を、慌てて捏ねくり回し始める。
──ふ……ん?
右耳から吸い込まれる鼻歌は、確かにいつも以上に抑揚があるな、と凪徒も横目を寄せてみる。
流しの向こう側でトマトを櫛形に切り始めたモモは、そのまた向こうのコンロにかけられた味噌汁の火を止めて、再びトマトの元へ戻ろうと凪徒の方へ身体を向けた。
その時感じた視線に思わず瞳を合わせていた。
「あ……」
「え、あ、いや、何でもないって」
慌てて手元のキャベツに集中したが、凪徒は少し動揺し、そして少し同情していた。
本来なら同じ世代の女子達と和気あいあい調理をしたい筈だ。が、『練習』のため、モモは大概自分とのスケジュールに付き合わされる。
と言っても、それは自分も同じことか? と思えば、そこは微妙な心境なのだが。