*夜桜の約束* ―春―
 『無理するな』



 ──無理……してるんだろうか?

「自覚はないのですけど……これで三度目の指摘になりますから、そうなのです、かね……」

 柵に掛けた右手の先に視線を落として気まずそうに答えたが、やっぱり良く分からない気がした。

「あのサーカスに入って、もう何年になるんだい?」

「ちょうど二年です。入って三ヶ月後にデビューしました」

「三ヶ月……! それまでに経験は?」

「いえ……運動部の手伝いで良く色々な競技に出場しましたが、特に何かを専門的にやったことはありませんでした」

「ふうむ……」

 そこまでの質問と答えに高岡は一つ大きな息を吐いた。

 口元に手をやった姿は何かを考え込んでいるようだった。

「タマちゃんは、それ(、、)を私に直させようとして、君を預けたのかもしれないね」

「え?」

 先程までまとまらないように揺らいでいた瞳が焦点を合わせる。


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