眠りにつくまで






「アパートのことは昨日光里は何も言いませんでした。引っ越しの準備をしているのか…三鷹さんはご存知ですか?」

父親がさっきまでより少し大きな声で聞くのはリビングに続くダイニングキッチンで珈琲を入れる母親にも聞こえるようにだろう。

「それは、年明けにでも光里と揃ってお伺いしようと思っていたのですが…」
「もう準備出来てるということですか?」
「いえ。光里と一緒に暮らしたいと思っています。もちろんご両親の許可を得てからと考えてお伺いしようと思っていたところです」

父親は黙り込み俺を見つめ、母親がそっと珈琲を俺の前に置いた。

「ありがとうございます。いただきます」
「三鷹さんと暮らすと…光里もそう言っていますか?」

母親が遠慮がちに俺に聞く。

「はい、彼女もそう言ってくれていますが、先にお父さんたちに会ってくると言ったんです。それで昨日光里がここに帰って来ましたけど、引っ越しの話はしてもしなくてもいいよと言ったのは俺です」
「どうして?」
「会うのが久しぶりだと聞いていたので、昨日の気分で言えること言えないことはあると思いました。だから‘引っ越しのことは光里が今日言っても言わなくても俺が許可をもらいに行くから、今日はどちらでもいい。引っ越しも含めて、何がどんな話になろうと俺が光里を手放すことはないから、好きに話してきて大丈夫’そう言ってここまで送り届けました」
「そうですか…三鷹さん」

改めて父親に呼ばれた。

「はい」
「光里本人にそこまで伝えていただいた上に、ここまで来ていただいて反対するつもりはありませんが、ひとつだけ聞いてもよろしいですか?」
「はい。何でも」
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