眠りにつくまで






「光里、よく聞いて…さっき、今日は何の日って俺が聞いたとき光里は3日で彼の月命日だと言い掛けて節分と言っただろ?」

聖さんは私の背中をゆっくりと擦りながら静かに言う。

「光里がそれを忘れるはずないと俺は理解しているつもりだよ?俺に遠慮して言わなかったのならそれは要らぬ気遣いだ。どんな時も愛してると言ったのは、光里が彼のことも事故のことも忘れない部分も含めてだ。今日だけでなく、光里は俺の前で彼の話を極力しないようにしているだろ?‘彼’って言って名前を呼ばなかったり…樹くんだっけ?いいんだよ…光里が樹くんの名前を口にしたって…わかる?」

ああ…この人には何もかもかなわない…

「そして、今日は何の日?は俺が光里にプロポーズしてオーケーしてもらった日…プロポーズ記念日だ」

そう言って私を抱えたままぐっと腹筋を使って起き上がった彼は

「3月3日に結婚しよう、光里。日にちは決定だから」

樹の命日を私たちの結婚記念日にすると言って微笑んで見せた。

「聖さん、ありがとう…聖さんが拾ってくれたハンカチ覚えてる?」
「Hの刺繍のあるハンカチ、覚えてるよ」
「あれね…樹がくれたハンカチなの…玲央さんが言ったように樹が導いてくれたから私は聖さんと会えたんだと思う」
「そうか…今週末、俺も樹くんに礼を伝えるよ」
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