眠りにつくまで
「俺はいいけど、光里がきめること。丁寧に光里に説明しろよ」
お兄ちゃんは広告代理店から5年前に独立したグラフィックデザイナー。離婚と同時期だったからこの家の自室で仕事を始め、今はおじいちゃんの家を使っている。最近忙しいからアシスタントが欲しいらしい。
「今は徒歩ですぐなのに通勤に時間がかかるようになる」
「今は5時終業で残業なしなんだよ」
お兄ちゃんが説明してくれたら聖さんが次々と言う。
「光里がきめることって言いながら聖は反対なのか?」
「いや、反対とは言っていない。問題点を言っただけ」
「30分ほどで来られないか…」
「電車だけで30分ほどだな。うちから駅が少し遠いしここだって駅前ではないから1時間はかかる。往復2時間以上通勤に時間が取られるのは光里に負担だ。好きな料理をする時間が減る」
「こっちに引っ越す?」
「いや」
「聖のマンションの部屋を俺の仕事部屋にするか…俺が通う」
「いや」
「どうして?」
「帰りそうにないから。居座るだろ?」
兄弟でどんどん話をしているが
「あの…私、出来ませんけど?」
「「出来る」」
二人が声を揃えるので口を閉じた。
「忍、アシスタントにって言ってもどういうことをするのか光里ちゃんに説明しないと返事のしようがないわよ。通勤なんて先に考えても仕方ないでしょ?」
お母さんが呆れたように言い
「光里ちゃんの家には素敵なお品書きがあるのね。こんなことが出来る女性と結婚できるなんて聖は幸せね」
と、もう一度スマホを覗き込んだ。