眠りにつくまで






一貫校には、推薦入試だ、一般入試だという時期的な多忙さというのはない。もちろん、そういった入試制度はあるが人数は僅かなので、日常の業務に組み込んで対応が可能だ。なので一年を通して残業は少ない。

今日も定時で仕事を終えると、気持ちはもう明日へ向いている。明日は3日だから。

3日というのは、1月は年始休み中、5月はゴールデンウィーク中、11月は文化の日で祝日なので1年12ヶ月のうち¼は必ず仕事が休みだ。加えて、明日のように週末の土日にくることがあるので、また休み。

そういう仕事が休みの3日には午前9時頃、仕事のある平日の3日には7時までに必ず行く場所がある。平日はそこから出勤するのだ。

眠りにつく前に、目を閉じて記憶を丁寧に引っ張り出す。何一つ傷つけないように丁寧に思い出す。毎日毎晩…こんなに丁寧に慎重にしていることなのに…やだ…やだ…最近その記憶がぼやけ始めたような気がする。慌てて、もう一度1から記憶の再生を試みる。

そう、あの時の彼はデニムシャツを羽織っていて‘光里、走らなくていいよ。大丈夫、間に合うから’と言いながら、走って乱れた私の前髪を整えるように撫でた…思い出せるよ。私が初めてお弁当を作った日は、黒いTシャツを着た彼が片寄った中身を見て‘ここから取りやすいよな’って笑ったの…思い出せるよ…でもね、声が…これで合ってる?
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