眠りにつくまで






彼女だ…またいたな。

数ヶ月ぶりに訪れた墓地。そこで何度か見かけた彼女。墓地なので黒いワンピースが目立つ訳ではない。しかし季節が変わっても毎回黒いワンピースで、毎回同じ長さに切り揃えられた前髪は不自然なほどで、俺の脳裏に焼きついた。

俺がここに来るのは4年前からだ。その頃から服装も髪型もいつも同じというのは、よほどの拘りがあるのか?だが、今日変わっていたのはその表情だ。生きているのか…場所が場所なだけに、そう確認したくなるほど生気のない顔。

今にも倒れるのではないかと思いながら彼女が手を洗うのを見ていると、水が冷たかったのか一瞬肩を揺らし目を(しばたた)かせたのを見て‘生きてる’と安心した。ふっ…俺が安心するのもおかしいがな。

俺も使ったバケツを返し帰ろうとしたところで、白いハンカチが落ちていることに気づく。いつもなら見て見ぬふりのそれも、周りに人がいないことから彼女のものだと、迷いなく腰を折り手を伸ばした。湿り気を帯びているためについた少しの汚れを手で払い‘H’とスクリプト書体で刺繍されているのを指でなぞる。白いハンカチに白い刺繍。それなのに美しい立体感で主張する‘H’。

ゆっくりと駐車場へ向かいながら彼女を探すように辺りを見渡すと、少し離れたところで女性と話している‘H’を見つけた。
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