眠りにつくまで






何が何だかよくわからなかったが、この手のことを言われたようなので気付かれないように静かにそっと手を膝の上に下ろす。いや…すでに気付かれているのだが…そう思うと一人焦る。

「えっと…引っ越しは決まっていて…それで…えっと…時間をかけて…大丈夫です…んと、今朝も…ね、もう…」
「ふっ…光里、深呼吸。吸って…ん、ゆっくり吐いて…」

焦る私に聖さんがゆっくりと言うから、その通りにする。ふーーっ…

「中断していた話を再開するよ、いい?」

今はおかしな声が出そうで、唇を閉じたままコクコクと頷く。

「まず…ハンカチを拾った時点で、好意のない相手のものならそこへ置いておく。持ち帰って洗濯してアイロン掛けて…翌月に早朝から届けに行くつもりで出掛けるんだ…会えるかどうかは不確かなまま…すでに好意がある行為だよね。あっ、ダジャレじゃなく真面目に言ってる」

真面目に言ってると言いながら、自分でウケたようでクスクスと笑った聖さんは

「カッコよく決めたいところでちょっと失敗」

と椅子にもたれ店員さんに

「珈琲ひとつお願いします」

と注文した。
< 88 / 325 >

この作品をシェア

pagetop