我が身可愛い大人たち
しかし、自分は絵里奈より八つも年上のオジサン。
ふたりきりでレストランやバーに行くのは彼女も嫌だろうと、普段から社員との面談に使っている小会議室に絵里奈を連れて行き、机を挟んで彼女と向き合う。
美鳥には【残業になった。食事はまた今度】と連絡した。
『それで、相談っていうのは?』
『あの、実は……』
心なしか頬を赤く染めた絵里奈が、肩から提げたバッグに手を入れる。そして取り出したのは、上品なラッピングを施された正方形の箱。
包装紙には、和真でも知っている有名なチョコレート専門店のロゴが入っていた。
『これを受け取っていただきたかったんです。ほかの社員さんたちがいる前では、渡しづらくて』
両手で箱を差し出され、和真は一瞬ぽかんとする。
『えっ……と』
バレンタインにチョコレートを渡されて、心躍らない男はいない。
しかし、自分は絵里奈の上司である。このチョコレートに特別な意味はなく、日ごろの感謝の気持ちと考えるのが妥当であろう。
和真はつとめて平静を装い、受け取った箱を机に置いた。