我が身可愛い大人たち

「ちょっと、なにして……!」

 とっさに美鳥が駆け寄ると、振り向いた絵里奈は長い髪を風に巻き上げられながら、儚い笑みを浮かべた。

「いいの。もう、疲れたから」

 絵里奈はゆっくり前に向き直り、目を閉じる。

(他人にどう思われるか。どうしたら好かれるのか。嫌われずに済むか。考えるエネルギーが、私にはもうない)

 自分の末路を美鳥に見せようとしたのは、せめてもの悪あがきだった。

 雅巳や和真の話を聞く限り、美鳥は身も心も美しい。しかしそんな彼女でも、絵里奈が目の前で自殺したとなれば、罪悪感に苦しむだろう。自分のせいかもしれないと、気に病むだろう。

 それだけを置き土産にして、絵里奈は旅立とうと決めた。

 しかし、改めて眼下の暗闇を見つめると、ドクン、と絵里奈の鼓動が恐怖に震えた。

「ねえ、やめなさいよ……危ないから、こっちに」

 絵里奈を刺激しないよう、じりじりと手すりへ近づいていく美鳥。

 もうすぐで手が届きそうと思ったその時、ゴオッと突風が吹き、風に煽られた絵里奈がバランスを崩した。


(あ……私、死んだ)


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