我が身可愛い大人たち
絵里奈がぼんやりと思ったその瞬間、美鳥は手すりから身を乗り出し、絵里奈の手首を必死の思いで掴んだ。
痛いくらいに強い力で、美鳥が絵里奈をこの世に引き留めていた。
「なん、で……」
「なんでとか、今そんな悠長なこと話してる場合じゃない! も~、どうしようこの後……! 誰かーっ! 助けてー!!」
腕一本掴んでいるだけでは、いつ力尽きるかわからない。
それでも美鳥はこれっぽっちもあきらめるそぶりを見せず、歯を食いしばって絵里奈の手首をしっかり握っている。
すると間もなく、懐中電灯を持ったビルの警備員が慌ててふたりの姿に気づき、美鳥に加勢した。
ふたり掛かりで絵里奈を引き上げると、美鳥は疲労感でドサッとその場に尻もちをついた。
絵里奈は絵里奈で、未だ恐怖に震える胸を押さえながら屋上の床に座り込んでいる。
警備員が無線でどこかに連絡をし始める傍らで、美鳥が絵里奈の顔をそっと覗く。
「あのさ」
「えっ……は、はい」
「どうして飛び降りようなんて?」
美鳥は、直球で絵里奈に問いかけた。絵里奈は微かに眉根を寄せ、唇を噛む。
胸の内で、今日までの一週間ずっと渦巻いていた美鳥への恨みが募った。