カッコウ ~改訂版

 埼玉の両親は、急に帰ってきた私達を不審気に迎えた。孝明と私の硬い表情から、両親も何かを感じたはず。
 「突然、すみません。お父さんに折り入って相談があります。お母さん、すみませんが子供達をお願いします。」着いてすぐに孝明は父に言った。父はぎこちなく笑って、私達を客間に導いた。
 「お父さん、実は大変な事になってしまいました。大翔は俺の子供じゃなかったんです。」孝明の言葉に、父は怪訝そうな顔をする。孝明と私を交互に見て、
 「何?どういうこと?」と聞き返す。
 「大翔の父親は俺じゃなかったんです。」何も言えない私に代わって孝明は言う。
 「じゃ、誰が大翔の父親なんだ。」ただならぬ顔の私達に、父も事態の深刻さを理解し、父は私に向かって問いかける。でも私は俯いたまま、何も答えられない。
 「みどり。どういうことだ?」少し声を荒げる父に、
 「俺と知り合う前に、みどりが付き合っていた人の子供だそうです。」孝明は静かに応えた。
 「えっ。本当なのか。みどり。」父は私に詰め寄る。私が小さく頷くと、
 「何やっているんだ、お前は。」と膝立ちになる父。動揺と怒りで父の顔は真っ赤になっていた。
 「昨日わかって。一晩考えたけど、どうしても今のままは暮らせません。すみませんが離婚したいと思います。」静かに話す孝明。
 「ちょっと待ってくれ。急過ぎて。よくわからないよ。」答える父も苦悩の表情で。
 「お父さんの動揺はわかります。でも、もう子供達と一緒にはいられない。」孝明は言葉に詰まる。涙を堪えるように沈黙した後で、
 「色々な手続きはこれからするので、みどりと子供達をお願いします。」孝明はそう言って父に頭を下げた。
 「孝明君、ちょっと待ってくれ。何とかならないのか、みどり。本当のことなのか?」結論を急ぐ孝明を、父は抑えようとする。
 「大翔が俺の子じゃないことは、変えられないので。もうどうしようもないんです。」孝明の声は震え涙が流れる。
 私は初めて孝明の涙を見た。孝明は深く傷付いている。私が孝明を傷付けた。これからどうやって生きていくのか、孝明だって途方に暮れている。私は座卓に伏して号泣した。
 「お父さん、俺はこれで帰ります。俺もまだ受止められてなくて。すみません。」両手で顔を擦り、孝明は言う。
 「孝明君、何て言っていいか。本当に申し訳ない。」父は孝明に深く頭を下げた。
 「いいえ。子供達のこと、宜しくお願いします。もう会わないつもりなので。」孝明はもう一度手で顔を覆う。
 「ここにお邪魔するのも、今日が最後だと思っています。」孝明の決意は子供達への愛情だと、私は気付いていた。深く頭を下げる孝明に、
 「孝明君、許してくれ。本当にすまなかった。」父も涙声で頭を下げた。
 
 






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