カッコウ ~改訂版

 「大翔、悠翔。パパ、帰るよ。ママとお祖父ちゃん達の言う事、ちゃんと聞くんだよ。」客間を出た孝明は、子供達に声をかけた。跪いて、二人と目を合わせて。
 「パパ、いつ外国行くの?」大翔が寂しそうに聞く。
 「明日だよ。パパはいつ帰れるかわからないから。大翔と悠翔でママを守るんだよ。」子供達の頭に手を置いて言う孝明。大翔は不満げな顔で頷く。悠翔は何もわからずにニコッと笑って頷く。真っ赤に潤んだ目で、孝明が涙を堪えて立ち上がると
 「パパ。明日、飛行機の所までお見送りするよ。」と大翔は言った。多分大翔は何かを感じている。
 「明日は銀行の人がいっぱい来るから。今日、ここでバイバイしようね。」と孝明は言って、子供達二人を抱きしめた。孝明が最後の別れだと思っていることを、私は感じていた。
 「パパ。なるべく早く帰ってきてね。」大翔の言葉に孝明は頷く。
 「大翔も悠翔も、ご飯たくさん食べて、大きくなるんだよ。」孝明が涙を堪えて言って、歪んだ笑顔で二人の頭を撫でた。
 「パパ、バイバイ。」一人、車に乗る孝明に手を振る子供達。孝明は“プッツ”とクラクションを鳴らして、車を発進させた。
 
 孝明の車が出て行くと、私はトイレに駆け込んで声を上げて泣いた。なんてことをしてしまったのだろう。大翔も悠翔もパパが大好きだったのに。二人はもう二度と孝明に会うことはできない。私の手から零れていく幸せな日々。これから私は、一人で子供達を育てられるのか。失ったものは、あまりにも大きかった。
 7年前、どうして私は茂樹を拒まなかったのだろう。あの時の愚かな自分に、私は今復讐されている。孝明と付き合い始めた時、一度は別れる決心をしたのに。どうしてまた抱かれてしまったのだろう。何度も、何度も…孝明と付き合っているのに。
 自業自得というには、あまりにも代償が大き過ぎて。私だけじゃなく、大翔や悠翔の人生まで狂わせてしまった。もちろん孝明の人生も。悪いことをしたのは私なのに。みんなに罰を背負わせてしまうなんて。
 私はこれからどうすればいいのか。どうやって子供達を育てていくのか。考えれば考えるほど途方に暮れて、私の涙は枯れることなく流れ続けた。







 
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