カッコウ ~改訂版

 私がはじめて茂樹に抱かれたのは、3年生になってすぐだった。3年になると茂樹の授業はなくなる。このまま終わりにしたくない。
 「先生、折り入って相談したいことがあるのですが。お時間を作って頂けますか?」私は授業の合間に茂樹を訪ねた。
 「どんな相談?」茂樹は満更でもない顔で私に聞き返す。2年間茂樹の授業を受け、いつも前の席で茂樹を熱く見つめていた私。試験でも良い成績を取っていたから。茂樹は私の好意を感じていたはず。
 「ここではちょっと。その時に話します。」と俯く。茂樹は躊躇う様子もなく、手帳を開いて日時を指定する。
 「ありがとうございます。」研究室をた私は心の中でガッツポーズを作っていた。約束さえ取り付ければ何とかなる。二人きりの時間を作れば。茂樹と会う日までに、うまい相談を考えよう。
 
 そんな必要がなかったことを、私は茂樹に会った時に気付いた。待ち合せたカフェで待つ私を、やって来た茂樹は、
 「出よう。」と促す。
 「軽く飲みながら、ゆっくり話そう。」と言って私達は近くの居酒屋に移動した。
 「須永さん、いつも授業、真剣に聞いていてくれたよね。」賑やかな店内。大学にいる時よりも砕けた話し方で茂樹は言う。私の気持ちには気付いているくせに。軽くビールを飲みながら世間話しを続ける茂樹。
 「それで相談って?個人的なこと?」突然、茂樹は改まった口調で私に聞く。私は小さく頷いてストレートに言った。
 「私、先生のことが好きです。3年になって授業がなくなってしまって。先生に会いたくて。どうしていいかわからないんです。」茂樹はわかっていて私の誘いに乗ったのだから。真っ直ぐ茂樹を見つめて私は言った。
 「それは困ったな。僕は結婚して子供もいるからね。須永さんの気持ちには応えられないよ。」予想通りの答え。言葉とは裏腹に少しも困ってない様子の茂樹を、私は切迫した表情で見つめて言った。
 「わかっています。だから遊びでいいんです。時々、会って下さい。私、家庭を壊したりしないから。絶対。」話しているうちにだんだん感情が入ってきて、私は涙汲んでしまう。
 「須永さんを傷つけるからね。そんなことできないよ。」茂樹は拒否の姿勢を見せるけど。私を受け入れるつもりがないなら、二人きりでは会わないはずだから。
 「このまま会えない方が傷付きます。」私は更に言う。
 「私、何も望まないから。ただ一緒にいたいだけなんです。少しでも。先生の近くにいたいんです。」茂樹を落とす為の陳腐な言葉に私は酔っていく。気持ちが昂って声が震えてくる。
 「困ったな。本当に何もしてあげられないけど、いいの?」茂樹は渋々という感じで、自分は押されただけという姿勢を崩さない。
 「はい。時々会ってもらえれば。二人だけで。」私は涙を浮かべて言う。その時、近くのテーブルで賑やかな歓声が上がる。
 「落ち着かないね。静かな所に行こうか。」茂樹は私を促して立ち上がる。そのまま近くのホテルで茂樹に抱かれた。
 








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