お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「逢坂先生、旦那さんの話、ほとんどしませんよね。新婚さんなのにあまり幸せそうじゃないですし、お見合い結婚でお互い好きで結婚したわけじゃないんでしょ?」

「大きなお世話ですし、はっきりお断りします。川島先生は同僚でそれ以上はありえませんから」

 お酒が入っているとはいえ、笑えない冗談だ。さっさと足早に立ち去ろうとする。しかし、その手がつかまった。

「こうして旦那さんがいないときに、また飲みに行ったりしましょう。俺だったら寂しい思いもさせませんよ。なんなら旦那さんの代わりだと思ってもらったら」

〝代わり〟という言葉に胸が痛む。

『だから千紗が私の代わりに大知くんとお見合いしてよ』

「馬鹿にしないでください。代わりなんて御免です!」

 自分でも驚くほど大きな声になった。

 一体、なにに対して言っているの? 彼に対して? それとも……本当はあのとき、こう返したらよかったのかな。

 複雑な思いに駆られる中、川島先生は手を離してくれず、うつむき気味の私の顔を覗き込もうとする。

「どうしたんです? そんな泣きそうな顔をして」

 心配というより面白がっているような軽薄な笑みだった。指摘され私は顔を背け、唇をきつく噛みしめる。

「離して! 離してください」

 極力冷静に伝えたが、逆に川島先生はもう片方の腕をつかんだ。男の人の手の感触に体が震える。

 お酒のせいか、この状況のせいか、腕に力が入らない。
< 101 / 128 >

この作品をシェア

pagetop